『あなたは独りでゆっくり飲める店がありますか』と尋ねられて、幸いにも私には二つほどある…と答えることができた。30歳をそこそこ超えたばかりの若輩者の私が、そんな店を知っているだけで、幸いというほかない。私の父も、ひょっとすると30年前から、行きつけという店を持ってたりするのだろうか。私の場合は、2年前に上司に連れられて行って初めて知った赤坂の店と、独りで勇気を出して暖簾をくぐった大名の店がある。どちらも、私は常連と言えるほど、足を運ぶことはできてないが、そこには脈々と長年培われてきたその店の世界観があり、私はそのほんの一部にお邪魔できているという感じなのだ。そしてあわよくばその空間に馴染むことができれば、ようやく自分の存在が許されたのだ…と、そんなこと独りシミジミ思ったりなんかしながら、その空間にいることが楽しめるようになった。これからご紹介する居酒屋は、そうした独特の世界を、常連と客と店が、長い長い時間をかけて作り上げた世界を大切にしている店…そう、それは愛すべきお父さんたちによるお父さんの居酒屋なのである。